コラム “地域貢献度”が地域ビルダーの武器になる!?

2011年10月27日

住宅市場と小売市場はよく似ている!

 小売業界では、郊外のロードサイドに県外資本の大型店やチェーン店が軒を連ねて繁盛する一方、地域の小売店街が閑散とし、地域経済が沈滞化することが社会問題となっています。これを受けて、官民が一体となり、地域をあげて、地元商店街を活性化しようとのまちづくりの取り組みがなされ、その成功例がマスコミで取り上げられたりします。

 

   地方の住宅産業界においても、県外資本の大手ハウスメーカーのほか、県外資本のローコストビルダーが直営で進出し、フランチャイズ住宅が地域工務店を傘下にするなどして、地域工務店の受注シェアが低下、県内のお金が県外に流出する事態が常態化しています。この地域経済が衰弱していく様は小売業と酷似していると思えて仕方がありません・・・。

 

 そう考えますと、地域のまちづくりにおいて、地元小売業の再生事例、成功事例があるということは、地域住宅産業おいても小売業と同じように、地域の皆さんによる地域再生は可能なのではないでしょうか?

 

地域工務店による地域木造住宅の地域貢献度を調査

 住宅専門紙の新建ハウジングを発行する新建新聞社では、県内の木材団体である信州木材認証製品センターの協力を得て、国土交通省の補助事業「平成22年度地域木造住宅市場活性化推進事業」の採択を受け、地域木造住宅産業がいかにしたら活性化できるか、その糸口を探る「地域工務店が造る家の地域貢献度調査事業」を実施し報告書にまとめました。

 

 本調査では、①地域工務店が造る県産材住宅、②地域工務店が造る非県産材住宅、③ハウスメーカー住宅―の3タイプ別に、地域(県内)に落ちるお金の割合のほか、地域木造住宅がどうして廃れてしまったのか、地域工務店が造る家の社会的的な意義を考察しました。

 

 地域に落ちるお金の割合  地域木造住宅60%、地域住宅45%、ハウスメーカー30%    その結果、住宅づくりの違いによる地域へのお金の落ち方は、サンプル数は少ないですが、①地域工務店が造る県産材住宅が約60%、②地域工務店が造る非県産材住宅が約45%、③ハウスメーカー住宅が約30%との結果が得られました。2,000万円の住宅新築なら、地域に落ちるお金は、①地域工務店が造る県産材住宅だと1,200万円、②地域工務店が造る非県産材住宅だと900万円、③ハウスメーカー住宅だと600万円と、地域貢献度が最も高い住宅でも40%、800万円のお金が県外に流出しているのです。

 

 地域貢献度減少の原因 ――― 既製品の住宅部材の多様と職人の手仕事の減少

   この理由は、ハウスメーカーやフランチャイズ住宅はもちろんのこと、地域工務店であっても、いわゆる県外由来の建材や住宅設備機器を多様するようになってしまったこと、建て方=工法についても、建材や道具を含めた、諸々の近代化が相俟って、地元の職人たちによる手仕事の割合が少なくなったことに行き着くのだと分析しました。

 

    戦前に造られていたかつての民家は、地元の里山から木を搬出し、手刻みされた木材を組み上げて造られていました。土壁の材料も、地元の土や砂、葦(ヨシ)や竹が使われていました。屋根葺きの材料には萱(カヤ)や麦わら、瓦も、一昔前までは、地域の砂を原料に○○高圧という瓦業者が其処ここに存在していました。建材は限りなく地産地消でした。

 

    地域を見渡せば、集落には、大工、板金、建具、左官などの専門工事業が、その家の職業が屋号になったりして、建築関連職人が地域社会の中に確実根付いる時代がありました。かつての建築工事は、施主がいて、棟梁がいて、専門工事の職人いて、施主が専門職人に直接仕事を発注して直接お金を支払う“直営方式”が慣わしでした。現在、地域工務店は新築の元請受注が以前に比べて厳しさを増し、廃業を余儀なくされるビルダーも増え、地域の職人たちは、ビルダーの顔色を伺い、低賃金を強いられている者も少なくないようです・・・。

 

 住宅には、地域の景観形成のような公共的な社会的意義もある!

    住宅は、室内は完全に住人のものですが、外観は公共性を伴ったもので、極端な例としては、世界遺産の白川郷や名建築が数多く残る高山市のように、観光振興につながるような潜在的なパワーも秘めています。このほか、地域材を使うと、地域の環境保全につながったりする社会的な意義もあると思います。

 

 地域貢献度を自社や仲間内の武器にしてみては!

    以上のような観点を踏まえますと、飲食産業における“緑ちょうちん運動”のような取り組みが、地域住宅産業においても可能なのではないかと考えます。    長野県内には、昔ながらに施主が大工さんにお茶出しをしていた時代のように、「職人との家づくりを一緒に楽しみませんか?」と、施主にアピールして成功している住宅会社もあります。

 

    地産地消の地域建材を使い、地域の職人が腕を振るう家づくり、それは、施主も、ビルダーも、職人も、地域社会も、地球環境も、地域の全員が喜べる住宅づくりとは言えないでしょうか?

 

    人は、震災ボラティアのように心の満足を求める本能を持っています。“住宅づくりにおいても、地域社会への貢献を意識する”という価値観を、自社なり、地域工務店同士なりで、生かしてみてはいかがでしょうか?

 

 (10月14日開催の研究会、新建新聞社社員の発表内容から抜粋)                               

 ※本報告書がダウンロードいただけます・・・。

投稿者:株式会社新建新聞社

地域貢献度調査報告書