長野県は標高が高く冬寒い
長野県内の主要観測点と全国の都市の気温変動をグラフにしてみました。全国の気温が高い都市(大阪、名古屋、東京、静岡)との比較をします。最も気温が高いのは大阪で、夏は名古屋や東京と比較しても1℃ほど高温になります。冬は海岸線を流れる暖流の影響を強く受ける静岡が最も気温が高く7℃ほどです。長野県内の都市と比較すると、夏はおおよそ3℃ほど高く、冬は6℃ほど暖かいことが分かります。
逆に東北地方の気温が低い都市と比較をします。仙台、盛岡は夏の気温は長野県内の都市よりも1℃ほど低く23℃ほどです。冬の仙台は飯田よりも暖かく、盛岡は長野県内の都市よりも低く-2℃ほどになります。
このように比較してみると、夏は、長野、松本、上田、飯田は比較的気温が高く、冬は気温が低い傾向がはっきりと表れています。また、標高が1,000mもある軽井沢は、極端に気温が低いことが分かります。軽井沢の平均気温は年間を通じて札幌市に近いと思っていただいて結構です。長野県内の気温は平野部でも年間気温の変動が大きく、標高が高い地域では極端に気温が低く、住宅にとっては難しい気象条件になっていることが分かります。
次に長野県内についてですが、夏は長野、松本、上田、飯田はほとんど気温差はありません。冬になると飯田は他の3都市よりも1℃以上暖かいことが分かります。最低気温は1月で飯田(1℃)、長野、松本、上田はほぼ0℃です。軽井沢は特別に気温が低く、1年を通じて他の4都市より5℃ほど低く、夏は20℃と快適ですが、冬は-4℃程まで下がります。
同じ長野市の中でも気温の差は大きくあります。次の図は、長野市内の複数の観測点で気温を1年間測定した結果から、最暑日と最寒日の気温と風速を時刻別に示したものです。
これを見ると長野市内でも最大で5℃もの気温差があることが分かります。つまり、長野と東京の気温差と同程度の気温差が長野市内にも存在するわけです。当然ですが、東京に建てる住宅と長野に建てる住宅はその特性が違うように、5℃の気温下がれば、建物性能への要求も変わってきます。この意味からもその地域の気温特性を把握している業者・設計者が住宅を建てることは、全国一律の建物よりも住まい手にとっては快適な住宅を得るための第一歩になると思います。
住宅内の気温差の大きさによるヒートショックと血管系への影響
国土交通省が住宅内外の課題について調査した検討会の中に室内熱環境問題検討小委員会(主査 栃原 裕)がありました。浴室事故やトイレ事故に着目し、冬季における室内間の温度差との関連性を明らかにしています。夏季では大きな室内外の温度差による健康障害(冷房病)も報告されています。
冬期、東北地方に多い心疾患と脳血管疾患の死亡事故
住宅における健康影響要因を検討するため、家庭内事故と循環器疾患による死亡について、過去10 年間の人口動態統計の関連資料をひも解いてみた。
家庭内事故の死亡総数の経年変化を見ると現在に至るまで増加している。2006 年の死亡総数は12,152 人にのぼり、交通事故による死亡者9,048 人をはるかに上回っている。内訳は、浴槽事故が最も多く、次いで転倒が多い。家庭内事故の死亡総数を年齢階級別にみると高齢者に多い。循環器疾患による死亡について、2006 年、2001 年、1996 年の心疾患と脳血管疾患の都道府県別死亡率を高率な順で見ると、死亡率が高いのは東北をはじめとして寒冷地に多い。心疾患と脳血管疾患の月別死亡率は、夏に低く冬に高い傾向が認められるが、例えば、秋田の季節変動は両疾患とも大きいが、同じ寒冷地でありながら、北海道の季節変動は比較的小さい。
冬期の温熱環境と生理・心理反応
冬期の居室や浴室、トイレの温熱環境の実態や高齢者の生理・心理反応との関連性を検討した調査があります。
65 歳以上の高齢者が住む、浴室・トイレに暖房がある住宅(暖房あり住宅)とない住宅(暖房なし住宅)が対象。秋田と大阪の2地域で、各室温と外気温を1分ごとに1週間測定。高齢者にトイレと入浴の模擬行動を依頼し、その間の皮膚温、血圧、心拍数、温冷感、快適感についても調査が行われました。
調査期間中の外気温は、秋田で平均0℃前後、大阪で10℃弱。居間の気温は両地域とも大差なし。しかい、居間以外の場所は、大阪では差がないものの、秋田では気温が低く居間との温度差も大きい。秋田の暖房なし住宅では、居間と10℃以上の温度差がある。暖房あり住宅では、浴室やトイレと居間との温度差が小さい。秋田の暖房なし住宅の高齢者が、トイレ、浴室に移動すると血圧は明らかに上昇した。住宅内の温度差が、高齢者のトイレや入浴行為に生理・心理的なストレスになること、ヒートショック対策として、トイレや浴室の暖房は効果的であることも確認された。
寒冷地に見合った住宅設計が必要
夏期と冬期に全国の11 地域において、戸建て住宅を対象に室内温熱環境を中心としたアンケート調査のほか、住宅内の気温の実測調査の結果を用いて、調査対象住宅の設備や居住者の温冷感、冬期の住宅内各所の室温との関連性について分析した。その結果、以下の点が明らかとなった。
- ①コンクリート住宅、ユニットバス、浴室の窓は複層ガラスであることが外気温の影響を小さくしている。
- ②浴室やトイレの暖房効果が認められる。
- ③居間と浴室やトイレとの気温差は午後8時ごろに最大となる。
- ④住宅内の各場所における温冷感と実際の室温は共通でなく、浴室やトイレの寒さには比較的寛容である。
- ⑤各地域で居間と浴室の気温差が大きいと入浴事故死亡率も高い傾向にある。
- ⑥札幌は外気温と平均室温の関係が他の地域と異なっている。
冬期においては、住宅内で居間と浴室やトイレの気温差を小さくしてヒートショック(寒冷ストレス)を軽減することが、健康増進住宅を目指す一つの方策であり、浴室やトイレでの暖房をはじめ住宅設備を改善することにより、気温差を小さくすることが可能である。住宅にとっては厳しい条件の気候であるため、地域特性を把握した上での住宅設計が重要であることが分かる。全国一律の設計による住宅よりも地域差を考慮した住宅が望ましいと言える。
以上の研究成果から、寒冷地では浴室、トイレと暖房している居室の室温差が大きく、心疾患と脳血管疾患を引き起こす血圧の上昇を招いていること。冬期に心疾患と脳血管疾患の月別死亡率が高くなるが、北海道ではその傾向が少ないことが指摘されています。北海道は高気密・高断熱の省エネ型住宅の普及が日本で最も進んでいる地域であることを考慮すれば、こうした省エネ住宅は省エネだけではなく、高齢者の健康にとっても良いことが分かります。また研究報告書では全国一律の設計による住宅ではなく、地域差を考慮した住宅の有利性が示されています。